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概念の混同は罪悪感を植え付ける

実は『日本を識ろう-歪められた環境理論:バーチャルウォーター(回答編)』を読んでそのコメント欄にあった『リンクアドレス(リンク先のタイトルは「何も予断無く・・・」)』 へと飛んだのが、この件を書く切っ掛けとなりました。(そのやりとりについては別ページ

YOMIURI ONLINE(読売新聞)の記事(輸入食糧生産に水427億トン、東大生産技術研グループ推計)中に『日本への食糧輸入に伴って生じる輸出国の水使用量』という行があります。一見して気持ちの悪い文ながら問題無い様にも映りますが、実は文章間違いを利用して概念の混同を行っています。

文についてですが「伴う」は「ある事柄に応じて生ずる」意味の動詞です。「輸入」に「生産」が応じる事は無いため主部と述部が繋がりません。そして生産に消費した水(使用水=実際の水負担)生産した場合に消費すると推定される水(仮想水=依存による節水)異なる定義の概念であり、輸出側視点なら使用水輸入側視点なら仮想水という使い分けが必要です。そこを踏まえて正しく書くと、事の本質を突いた文になります。

日本の食糧輸入について書いた場合。

『日本の食糧輸入は輸出国が生産に伴う水を負担する形態の節水となっており、産地での使用水量に換算すると427億トンに相当する』

生産に伴う使用水量が焦点であれば次の通りです。

『食糧輸出国はその生産に伴って大量の水を消費しており、日本の輸入分だけでも427億トンに達する』

普通に書けばこのように日本の海外依存(節水)状況と生産国による水資源の浪費の問題点を晒せるのですが、元記事を読むと手間をかけて混乱気味の文に変えた印象があります。

引用してみましょう。

沖教授らはこれまで輸入される食糧の生産に必要な水の量「バーチャル・ウオーター」(仮想水)を年間約62・7立方キロ・メートルと推定したが、日本で生産した場合の数値を用いて計算したため、必ずしも輸出国の実態が反映されていなかった。

今回、研究グループは、輸出国の食糧生産実態に即し、河川からの取水、貯水池の操作による引き水の量などを細かく計算。日本に輸入される主要な小麦やトウモロコシなどの穀物類、牛肉や豚肉などの畜産物類計8種の生産に使われる水の量を「ウオーター・フットプリント」として求め直した。


(YOMIURI ONLINE(読売新聞)輸入食糧生産に水427億トン、東大生産技術研グループ推計より引用。以下、このページでの引用文は最下段の物を除き全て同じ引用元)


とりあえず勘違いと思われる箇所を指摘しておきます。

輸入される食糧の生産に必要な水の量「バーチャル・ウオーター」(仮想水)を年間約62・7立方キロ・メートルと推定したが、日本で生産した場合の数値を用いて計算したため、必ずしも輸出国の実態が反映されていなかった。

輸入食糧を日本で生産した場合の水が仮想水ですから輸出側の実態を反映する必要はありません。

「ウオーター・フットプリント」として求め直した。

以前から存在する比較概念の名称が変わっただけで仮想水に代替したものではありません。


何となく概念の区別が付かなくて混乱しているようにも見受けられますが、鋭い人はちょっとした疑念が浮かんでいる事でしょう。

内容は『これまで日本の数値だったが今回は輸出国の実態に即した』ですから余分な言葉を重ねている『必ずしも輸出国の実態が反映されていなかった』を省き、使用水は現地の立場で細かく求めているため輸出側に視点を移して『日本に輸入』を『日本へ輸出』と変えてみると……

沖教授らはこれまで輸入される食糧の生産に必要な水の量「バーチャル・ウオーター」(仮想水)を年間約62・7立方キロ・メートルと推定したが、日本で生産した場合の数値を用いて計算したため、今回、研究グループは、輸出国の食糧生産実態に即し、河川からの取水、貯水池の操作による引き水の量などを細かく計算。日本へ輸出される主要な小麦やトウモロコシなどの穀物類、牛肉や豚肉などの畜産物類計8種の生産に使われる水の量を「ウオーター・フットプリント」として求め直した。


……概念の違いを理解して使い分けている事が窺えます。

先に示した通り、正しく書けば環境の観点から輸入削減や国内増産、あるいは生産国の管理状況に焦点を合わせる事になるのですが、それを避けたいがために文の形を無視したと考えるのは行き過ぎた憶測でしょうか。

個人的には環境プロパガンダと判断しています。

それも記者の独断ではない、とも思っています。

東京大学のサイト内、2008年2月29日 報道用資料を見れば解るのですが、最下段の掲載紙面一覧にて「讀賣新聞、2008年3月1日(土) 朝刊、 日本の輸入食料、海外産地は水427億トンで生産」と記している事から、責任者である沖教授は記事を確認していると思われます。提唱者本人であれば意図的な混同文と見抜けるはずであり、何故間違ったままの掲載を許可したのか疑問です。しかし、下記引用にある自身の発言を補強するものとして放置したのであれば、環境問題に絡む援助に関して反対の声が少ない現状を利用したかったのではないかと邪推したくなります。

日本への食糧輸入に伴って生じる輸出国の水使用量が、1年間の合計で約42・7立方キロ・メートル(427億トン)に及ぶことが、東京大生産技術研究所の沖大幹教授らの研究グループの推計でわかった。

これは国内の食糧生産に使う年間農業用水量(約55立方キロ・メートル)の8割に相当する。使用量の1割近くは、輸出国で枯渇が懸念される地下水と見られ、将来的に日本の食糧確保に大きな影響を及ぼす可能性が浮き彫りになった。

=====中略=====

その結果、総量は約42・7立方キロ・メートル。その供給源を見ると、全体の約83%(約35・4立方キロ・メートル)を降水が占める。残りは引き水で、枯渇が予想される地下水は、全体の約6・8%(約2・9立方キロ・メートル)に達していた。特に最大の輸入相手国である米国で、地下水の依存度が高いこともわかった。

沖教授は「有限な地下水がかなりの割合で使われており、これが枯れてしまうと価格高騰などにつながる恐れがある。世界の水問題が、日本でも密接にかかわっていることが改めて裏付けられた」としている。


言わんとする事は理解出来ますが、米国などは正等な輸入制限に対してWTOへ圧力をかけて解除してやるとのたまう国です(被害国は複数有り)。水の問題は随分前から指摘されているにも関わらず、未だに莫大な保証金で農家を保護し、安価で輸出出来る制度のもと作るだけ作って売り飛ばす方策を取っている国です。

水問題を喧伝するのであれば環境問題をネタに輸出量制限を要請出来るよう政府へ働きかければいいのに、何故、輸出国の我侭を隠したまま援助や資源開発にばかり目を向けさせたがるのでしょうか。

印象操作に映るのは偶然だと、疑い過ぎだと仰る方は居るでしょうか。

Yahoo!辞書の例文を引用して同様の印象操作をしてみましょう。

Yahoo!辞書 とも‐な・う〔‐なふ〕【伴う】
2:ある物事に付随して別の物事が起こる。
「科学技術の進歩に―・って生活が簡略化する」


Yahoo!辞書より引用)


上記を弄って「技術進歩に貢献した研究開発機関にもっと予算を与えるべき」と印象付けてみます。

『科学技術の進歩に伴って生じる研究開発機関の必要経費は増加の一途を辿っている』

この通り印象操作は簡単です。

仮想水と同じ様な定義を当て嵌めると、科学技術を生み出すに伴い経費を投入しているため「科学技術=経費投入分」となり、例文で言えば「経費投入分の進歩に伴って生活が簡略化する」という置き換えが可能となります。これを印象操作文で試すと「経費投入分の進歩に伴って生じる研究開発機関の必要経費」となる訳で、置き換えが成り立たなくなっています。

ですが、特別な事はしていません。読売記事と同じ書き方をしただけです。

冒頭の文を仮想水概念に従い「食糧=水」と置き換えてみると解る通り、既に過去となっている「生産」を「輸入」に応じさせているため一見して気持ち悪さを覚える訳です。ただ、活字に弱い人はこのヒントを与えても気付かない様で、まぁお好きにと言った感じですが。


最後に、印象操作文を喜んで引用しているブログを一つだけ紹介。

「国際協力・NGO情報ブログ」のエントリー「バーチャルウォーター(仮想水)

今回の読売記事は、環境問題を好むブログ等での引用が散見されます。

とりあえず幾つか確認しましたが「ウォーターフットプリント=現地での使用水換算」として紹介している所は皆無でした。

紛争抑止に繋がるとした節水の概念は印象操作によって捻じ曲げられ、仮想水と使用水の混同が益々広がり、環境問題に直結させた無謀な論理で貿易圧力を無視し海外援助の声を上げさせる……

日本を経済的自給的危機へと陥れかねない発想は勘弁願いたいもので。


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