Home>>概念の混乱>>摩り替えの錯誤

前提の摩り替えで仮想水を増やした?

Webに公開された概論を読んで「実はこの人、少し混乱してるんじゃないの?」と感じました。

目安として『1キロの小麦を作るには1トンの水が必要』という概算があるそうですが、沖教授は従来の説に対抗するためか以下の部分にて摩り替えを行っています。

しばしば小麦の生産には千倍の重さの水資源が必要だ、と言われるが精製ロスなどを考慮すると可食部重量の2,000倍…

光合成効率の良いとうもろこしでも粒のみを考えると重さあたり1,900倍、精製後の小麦では2,000倍、精米後の米では約3,600倍の水を利用…

これによると、C4植物で光合成効率の良いとうもろこしでも粒のみを考えると重さあたり1,900倍、精製後の小麦では2,000倍、精米後の米では約3,600倍の水を利用している勘定になりました。日本が年間に輸入している小麦やとうもろこし、大豆の量にこれらの水資源原単位をかけて


2002年7月18日(2003年1月31日、2003年7月修正版) 東京大学生産技術研究所記者会見より引用
これを書いた時点での上記参照先魚拓


もう一つ。


「1キロの小麦を作るには1トンの水が必要」などという数字が一人歩きしていますが、その出典がどこにも書いてなかったんです。それなら日本で灌漑して育てたらどうなるか、自分で調べてみようと始めました。そうすると、光合成効率の良いトウモロコシでも、人間が食べる粒の部分だけを考えると、重量あたり2000倍の水、大豆は3400倍、小麦粉では4500倍、精米後の米では約8000倍の水を利用……


水のLCAが必要 - インタビュー - 環境goo(2002年度 11月)より引用
これを書いた時点での上記参照先魚拓


精製後で算出した数値を輸入量(精製前の小麦)にかけると言っている訳で、対比のため用語の使い分けを提案しつつ公平性の無い計算方法を提示するあたりどう突っ込んだらいいのか解りません。圧倒的に少ない輸入小麦粉のみを対象にしたとも思えないですし、仮想水量を増やすための恣意的な定義に見えるのですが。

沖教授の中で小麦1キロの生産に要する水は、4,500キロから始まって2,000キロを通過し1,600キロで収まった様ですが(参照:World Water Crisis and Japanese Water Resources Issues, 2002図1)、精製後の算出である前提を訂正する様子はありません。このままでは現地の使用水量と比較出来ないため、元の質量から失われた表皮と胚芽の計約17%を、仮想水の元となる数値(1,600キロ)からも差し引いて約1,300キロとします。これが本来の比較可能な数字でしょう(飛散などの損失は無視しています)。

沖教授の場合、可食部に拘った数字が研究動機であり、仮想水と現実投入水という比較による差異とその正確性が研究の柱となっている筈です。しかし、根拠となる算出方法は公正性を欠くため未だ論証されていない事になります。

詐術と言われても当然だと思いますが。

作為的な算出方法と捉えるか、単純に混乱してたと思うかは人それぞれでしょう。私個人は『大筋では錯誤による混乱で、帳尻を合わせるため最初から作為的な操作をしている』と好意的に受け止める事にしていますが、信頼性に欠ける研究である点は共通項なのでどうでもいいです。

沖教授はウォーターフットプリントを定義する際『これまでリアルウォーター(現実投入水)としていた呼称をウォーターフットプリントに改める』として、同じ発表内で仮想水も現実使用水も混同する暴挙に出ています。ODA根拠の責任者として担ぎ上げられ仮想水の流れに任せるしかない身の上だとしたら哀しいばかりですが、はたして。

輸入量参照
農林水産物の輸出入『農林水産物輸出入概況(2003年)』
小麦について参照
日清製粉グループ:小麦粉を学ぶ:こむぎの図書館
調質について参照
小麦粉の水分についての話(精製後質量のうち2%前後は日本で追加された水分)


■精製後の屑(糠)

近年の小麦精製屑(ぬか)は「小麦ふすま」として流通に乗っており完全にロスと言い切れる存在ではありません。まぁ無視できる量だと言われればそれまで。

参照:日清ファルマの小麦ふすま|食物繊維がいっぱいの小麦ふすま


▲topへ